【作品概要】
・タイトル:Innuendo
・アーティスト:Queen
・リリース年:1991年
・収録曲:12曲/53:44
【総評】★★★★☆
Queenの14thアルバム。
フレディ存命時にリリースされた実質的なラストアルバムです。フレディの体調悪化に伴い、線の細い苦しそうなボーカルが目立ちますが、それにより曲のジャンルを問わず、神秘的で切ない雰囲気を醸し出しているのが複雑なところ...特に1,4,5,11,12などは、当時の状況があったからこそ産み出せた名曲だと思います。
また作風としては、後期の作品の中で最もバラエティーに富んでいます。プログレ、ロック、バラード、ゴスペル、メタル、ポップス等なんでも有りといった感じで、まさに総括的な作品です。アルバム全体を通してみると、完成度にばらつきはありますが、名曲が要所を締めている印象です。往年の大作1、切ないロックナンバー4、郷愁漂う8、フレディの遺言ともとれる11,12などは、特に心に残ります。
ここからは個人的な感想ですが、フレディの死去によってQueenの実質的な活動は止まってしまいましたが、最期にこの作品を残せたのは、とても幸せな事だったように思えます。
【各曲レビュー】
1:Innuendo/★★★★★
オープニングを飾る6分半の大作。張り詰めたような緊張感やドラマチックな曲展開が凄まじく、The March of The Black Queenなど初期Queenの大作に匹敵する出来栄えです。
中でもフレディの透明感のあるボーカルが見事で、中間の「You can be anything you want to be~」の部分は、この世のものとは思えない美しさです。また2段構えの間奏が素晴らしく、哀しげなフラメンコギターのフレーズを後半バンドサウンドで再度聞かせるパートが圧巻です。Queenの中でもこれほど存在感がある楽曲は他に無く、この土壇場でロック史に残る名曲を産み出したQueenの意地を感じます。
2:I'm Going Slightly Mad/★★★★☆
低音を中心としたボーカルが印象的なナンバー。淡々とした曲調ですが、西洋の暗黒童話的な暗さがあり、ちょっと怖い感じです。バイオリンの音色を模したギターソロ、ダークなベースライン、無感情なフレディのボーカル等が印象的で、当時の心境を最も表した曲じゃないでしょうか。
3:Headlong/★★★☆☆
I Want It Allを大人しめにしたようなロックナンバー。前作同様、フレディのおじさん臭い声が曲にマッチしています。鬼気迫る楽曲が多い本作の中で、唯一楽しそうな雰囲気です。若干コーラスが迫力不足な感じがしますが、力を抜いて聴けるのが良いですね。
4:I Can't Live With You/★★★★★
個人的にQueenの中で一番好きなロックナンバー。ドラマチックさと切なさを兼ね備えており、激しいドラミングや泣きのギターソロなどQueenに求める全てが詰まった名曲です。フレディのボーカルも自然体で滑らかに高音を出していた、70年代後半を想起させ、何だか若返った印象です。この歌唱法が切ない雰囲気を演出していて、特にラストの連続するハイトーンボーカルは、感涙ものですね。
5: Don't Try So Hard/★★★★☆
神秘的な雰囲気が漂うバラードナンバー。メロディ自体はやや単調ですが、フレディのファルセット混じりの歌声が美しく、最後までしっかり聴かせてくれます。清らかな泉を想像させるような効果音や切々としたギターのトーンも相まって、荘厳ささえ感じられます。
6:Ride The Wild Wind/★★★☆☆
疾走感溢れるドラムに、フレディの低音ボーカルが被さるロックナンバー。疾走感に反して、テンションが抑えめなのが新鮮で、地に足がついた印象です。聴いていると、柔らかな風の中を駆け抜けていくようなイメージが自然と湧いてきます。
7:All God's People/★★★★☆
Somebody To Loveを彷彿とさせるゴスペルナンバー。当初はフレディのソロとして、病が悪化する前の1988年頃に作られていたこともあり、パワフルなボーカルを堪能できます。ロジャーの超高音ボイスをはじめとした分厚いコーラスが強烈で、デビューしたての頃のドラマチックな雰囲気を堪能できます。
8:These Are The Days Of Our Lives/★★★★★
ロジャー作のバラードナンバー。曲全体を包むセピア色の空気が印象深く、柔らかいドラムの音色やフレディの優しいボーカルも相まって、すごく懐かい感じがします。また中間のギターソロも主張は強くないんですが、自然と泣きを誘うようなフレーズが良いですね。
9:Delilah/★★★☆☆
愛猫家のフレディが、猫への想いを綴ったナンバー。序盤の柔らかいシンセの感触や「You get away with murder so innocent」のポップなメロディが心地いいです。ただ中盤以降の猫の鳴き声を模したギターやボーカルが、個人的には苦手ですね。この部分は、好き嫌いが分かれそうな印象です。
10:The Hitman/★★★☆☆
冒頭のヘヴィなギターリフとドラムの高速連打が印象的なロックナンバー。Queenの中でも激しい部類の曲で、もはやロックというよりメタルですね。ヘヴィですが、中間の「Love me baby, don't be so cool~」からの速弾きギターソロが、高揚感を煽るような感じで良いですね。後半の展開がやや蛇足ですが、曲としては結構好きです。
11:Bijou/★★★★★
ブライアンがフレディへの想いをギターに託した名曲。全編を包みこむ泣きのギターは、美しく時折痛々しさを感じさせるほどで、ブライアンの悲しみが伝わってきます。対照的にフレディのボーカルはとても穏やかで、残されたメンバーに対して別れを告げているようです。特に歌詞の最後が「Forever My bijou」で締めくくられているのが、何とも言えません。
12:The Show Must Go On/★★★★★
フレディが全身全霊を込めたラストナンバー。バンドメンバーへの想いを歌ったのが11だとすると、本曲はQueenのボーカリストとしての誇りや意地を最期に示した曲だと思います。それはフレディの歌唱にも表れていて、終盤の「I'll face it with a grin~」やラストの「I'll top the bill I'll overkill ~」の鬼気迫る歌唱は、涙なしには聴けません。
フレディの死という要素が絡んだ曲なので、暗くて悲壮感漂う印象もあります。ただ病による体調悪化の影響がありながらも、力強いハイトーンが要求される本曲を歌い切ったという点では、清々しい気持ちになります。何というか最後までやり切ったんだなと感じさせる曲ですね。
・作詞作曲:Queen 1991年Innuendo収録のInnuendo、Delilah、The Hitman、Bijou、The Show Must Go Onより歌詞を引用